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第14回 「消える文字」 株式会社寿製作所

考えつくされた見えない技術
「消える文字」の構造を考えた時、金属をそのまま文字の形で切断しただけで出来ると思ってしまうが、ワイヤー径が0.2㎜と髪の毛程の太さがあり、ただ文字をはめ込んだだけでは、隙間が見えてしまい文字が消えない。文字を消える様に見せるには、文字と外周の隙

間は極限まで小さくする必要がある。そこで、ワイヤー線の放電エネルギーによる摩耗で、切断面がテーパーになる欠点を逆手に取り、文字を鏡文字で切断し、表裏反転ではめ合わせる事で均一な極小の隙間2μ(ミクロン、1μ=0.001㎜)を実現させた。文字と外周の高さの段差が無くなった時、あたかも文字が消えたような錯覚を生み出す。
機械のクセを知り自在に操る
加工機はデータを入れれば誰でも動かせる。だが、機械を使いこなすには、長年の経験が必要だ。材質のクセや厚みを考慮し、切断スピード、電流値の微調整など、機械の特性を知り、いかに最適条件で動かすかが”デジタルと職人技の融合”つまり「機械を使いこなす」ことなのだ。「今回の作品は日々の技術を応用しただけ。通常の金型製作の方がもっとシビアで難しい」と語った山崎氏の言葉からは、謙虚ながらもワイヤーカットへの強い想いや職人としての誇りを感じた。 今回の「消える文字」には、そういった見えない技術や想いがたくさん詰まっている。 それは、日々のトライや、加工に必要な治具製作など、機械の能力や幅を広げる意識を常に持っているからだ。
機械に頼るのではなく、特性を知り、最大限に機械を使いこなす努力が誰にも簡単に真似出来ない技術を生み出していると感じた。 我々モデラーもその姿勢を見習い、道具や機械、材料を使いこなし、モデラーとして誇りを持って、デザイナーを納得させる高品質なモデル作りが出来るよう努めていきたい。