移動する感動のおもてなし空間
移動空間のおもてなしをデザインしている水戸岡氏に聞く
仕事とは感動を共有することである
私にとって仕事とは相手と感動を共有することだと考えている。感動をどう仕事や、商品の中に落とし込めるか。それが落とし込めたときにその仕事はほとんど成功したと言える。デザインは理想を持つことから始まり、理想が成長を生み、楽しさを生む。理想の話をして、長期的なビジョンで物事を見据えた開発を行っていくことが、将来の文化をつくり、経済を盛り上げていくことにもつながる。
最後の1%が重要
目に見えるデザインは最後の1%だが、その1%が非常に重要である。99%理屈で固めた上に、最後の1%に感性を入れ、センスの魔法をかける。この1%が素晴らしいとみんなの目に留まって褒められ、また、プロダクトから派生した街づくりにつながる行為となる。大人たちが最高の力を出していると感じた子どもたちは大人になってからも街を守り、また作れるようになるのだ。
この1%の中で重要なのは配慮やサービスが行き届いていることを感じさせる気配のデザイン。日本の伝統とはもともとそのようなもので、暖簾や打ち水、お香の香りなども気配が醸し出すもの。「見えないものをみえるようにする」という美意識が「気配を感じさせるデザイン」。そのためには空間に物語がなくてはならない。お客様が、「心地よい、楽しい、美しい」といったデザインを五感で感じる瞬間が描かれているかどうか。おしゃれなデザイン、かっこいいデザインなどという次元をはるかに超えた、ソーシャルモチベーションを備えた正しいデザインにこそ価値があるのだ。

水戸岡鋭治氏
インダストリアルデザイナー・1947年岡山市生まれ。ドーンデザイン研究所代表取締役
九州旅客鉄道(JR九州)デザイン顧問・両備グループデザイン顧問
デザインを手がけた車両が「ブルネル賞」「ブルーリボン賞」を何度も受賞。国内外で高い評価を得ている。